日経連は、「高コスト体質」・「日本高賃金」を理由に、これ以上の賃上げ(ベースアップ)はできないとくりかえし強調し、「生活の改善」は別の方法によって実現すべきだと主張している。
別の方法の代表格は「内外価格差の是正」、つまり物価の引き下げである。
たしかに物価が下がれば、賃金は一定であっても、購買力が高まり、生活の改善がのぞめる。
問題は、その物価の引き下げをどのようにして実現するか、である。
日経連は、規制緩和により競争原理を徹底させ、生産性の低い農業や中小企業を整理・淘汰していく方向を考えている。
つまり、低生産性の企業・産業が淘汰されることで、日本の生産性が全体として向上し、これによって物価が下がる、という論理である。
この「論理」には、かくされた重大なねらいがある。
一つは、「生活の改善」という錦の御旗をかかげて日本経済の「構造改革」を強行する、というものである。
いま一つは、賃上げを回避するというねらいである。
つまり、もう賃上げはできない、物価を下げることで「生活の質的改善」をはかるうではないか、という誘いである。
そのうえで日経連は、つぎのような賃金にたいする攻撃、人件費抑制策をもくろみ、すでに実践し第一・日経連は70春闘いらい、「生産性基準原理」をおしつけてきた。
これは日本全体の賃金抑制をねらうマクロの理屈である。
簡単にいえば、日本の平均賃上げ率は、日本経済の経済成長率以下でなくてはならない、これを破ればインフレになるぞ、という「理論」である。
99春闘にむけても、これを持ちだしている。
3年連続のマイナス成長が確実な現状では、「生産性基準原理」はズバリ賃下げを正当化する「理論」になる。
第2ミクロの、つまり企業レベルの賃金決定の「理論」として、日経連は従来どおり「支払能力」論を強調している。
この「支払能力」概念が資本家に都合よくできている。
つまり、中長期の経営計画のもとで「支払能力」の有無を判定するというのだから、いま現実に賃金(賃上げした賃金)の支払能力があっても、将来のあれこれの「困難」を口実に「支払能力なし」の結論をひきだせる仕掛けになっている。
要するに、「狼がくるぞ」の一言で「支払能力なし」を主張できる身勝手きわまる「理論」なのだ。
かりに「支払能力あり」との結論になった場合でも、その余裕があれば「雇用の維持」にまわせ、ベースアップに充当するのではなく一時金に付加しろ、さらには自社製品の値下げにあてている。
結局、けっしてベースアップが実現しない仕掛けになっているのである。
第3以上のことは、賃金の基本部分(所定内賃金)にかぎらない。
いま日経連がとくに強調しているのは、「総額人件費管理」の強化である。
これは所定内賃金のほか、超過勤務などの諸手当、夏冬のボーナス、退職金、福利厚生費など、支払名目のいかんをとわず人件費のすべてにおよぶ管理の徹底、つまり人件費の全面的な削減をもくろむものである。
日経連は、賃金の基本部分は4半世紀におよぶ「管理春闘」で抑制に成功してきたが、所定内賃金を100とすれば170以上にもなる「総額人件費」の抑制が手ぬるかつたと「反省」して、いまやその大幅削減に着手している。
日経連が「高コスト体質」というとき、(企業レベルでは)いまみた「総額人件費」をさしている。
その削減策はいろいろあり、すでにみた雇用破壊(雇用リストラ)が最大のものであるが、後述のように賃金そのものをさまざまな方法で削減しようと躍起になっている。
第4。
その一つが、「日経連型ワークシェアリング」の提唱である。
「報告」によれば、「賃金分割をともなうワークシェアリングの考え方(たとえば一人分の賃金を2人の雇用者で分け合う発想)の導入」ということになる。
括弧内も「報告」の引用であり、そのたとえは賃金が半額に急降下する猛烈な賃下げである。
これは「考え方」として示されている例なので、いま半額にこだわらないが、これはヨーロッパで生まれたワークシェアリングとは決定的にちがう。
実例をあげれば、フランスで98年、賃下げなしの「週35時間労働制」を法制化した。
これは労働時間の短縮によって一雇用をつくりだすこと(つまり仕事の分かち合い)が目的である。
さきの「半額賃金」論はたんなる「たとえ」ともいえない。
正社員を一人やめさせ、その賃金で2人のパートを雇い入れても「お釣りがくる」というケースがすでに日常化しているからである。
これを「報告」の言葉でしめせば、「企業内における多様な雇用形態(長期雇用を前提とする基幹的社員、専門能力を活用する有期雇用契約社員、パート社員など)を一層適切に組み合わせること」となる。
これは95年の「新時代の「日本的経営崖における提起と同じで、それを徹底させようとするものである。
これは賃金体系改悪による人件費削減策の強調である。
「報告」を確認しよう。
「能力や成果・貢献度に応じた賃金配分の徹底をめざす方向で、総額人件費の引き下げを含め、その柔軟化を視野に入れることが望まれる」。
この賃金体系改悪のねらいは、第一に、人件費の削減である。
これが基本だ。
資本家はこれが見込めないかぎり、賃金体系改定など提起しない。
みられるとおり「報告」は、これを実証してくれるかのように「総額人件費の引き下げ」というねらいを、みずから表明している。
もはやかくしても仕方ないという判断なのだろう。
賃金体系改悪のねらいは、これにつきない。
第2に、労働者間の競争をあおることである。
これにより、労働の効率アップと労働者の団結破壊をねらうことである。
さらに第3に、労働者を移動させやすくすることである。
この第3のねらいは「労働力流動化の促進」に役立つよう賃金体系を変えるというもので、これが最近、賃金体系改悪の不可欠なねらいとなっている。
年功賃金のような体系だと、長期勤続が有利なので労働者が会社をやめようとしない、これが困る、労働力の流動化の妨げになる、というわけだ。
以上、6つの賃下げ(人件費削減)の手口・口実をみてきた。
99年版「報告」で初めて明確に提起されたのは、第5と第6である。
それ以外は(古さの差はあるが)これまでもくりかえされてきた攻撃である。
99年版「報告」の序文は、つぎの文章ではじまっていた。
「1999年度の日本経済の最大課題は、97年度以降のマイナス成長をプラスに反転させることであり、この課題を達成し得るかどうかを、アジア諸国のみならず、全世界が注視している」。
そして、「こうした中で、99年の春季労使交渉を迎える」のだから、「労使は、これまで以上に、社会の安定帯たる役割を十分認識し、ともに協力して、この危機からの脱出を図らなければならない」と強調している。
この「社会の安定帯」の強調は、「報告」の最後の部分にもでてくる。
つまり、「この危機を労使がいかに乗り切るか。
これまで培ってきた人間尊重を基礎とする労使の協調・相互信頼関係は、こうした時にこそ真価が問われる」というのである。
たしかに日経連は、このような「労使協調の必要」をこれまでも強調してきた。
しかし、99年版では、「これまで以上に」としるされているように、その強調がいちだんとつよい。
なぜか。
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