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バリ島を楽しくすごす方法

インドネシア共和国、バリ島

一歩足を踏み出した瞬間私の視界いっぱいに広がったのは、明るい外国為替 やコバルトブルーなどの爽やかな色である。ゆったりとした不思議な音楽が流れ、トロピカルフラワーのほのかな香りが漂ってくる。嬉しさに、私は思わず微笑んだ。 と言っても、そこはまだ目的地の島ではない。だが、成田空港のゲートを通り機内に乗り込んだ途端、もう着いたのかと錯覚させるほど清々しい南国風の内装に、さすが南の島バリ行きの飛行機だ、と感心したのだった。 アジア・ノワールというシリーズの小説の取材のためにバリを訪れたのは、もう一年以上も前になる。アジアであればどこを舞台に書いてもいい、と言われてあえて選んだのが観光地として名高いバリ島であった。 アジアの辺境が好きで、観光客にはめったに合わない山の中や湖をウロウロする旅ばかりしている私と、若い女性の買い物ツアーのイメージがあるバリはどこにも接点がないような気がしていたが、ある祭りの存在を知ったことをきっかけに、行きたいという欲求がふつふつと沸いてきたのである。 年に一度、大々的に行われるニュピという祭りがそれだ。島人たちはこの日に悪霊が来ると信じていて、いっさいの外出をしない。あらゆる店も、公共施設も閉まってしまい、空港すら閉鎖される。人々は家に閉じ籠もり、ひたすら静かに祈りつづける。毎日何千人も訪れる観光客ですら例外ではなく、無理にホテルの外に出ようものならこっぴどく注意を受け、逮捕されることもあるのだそうだ。 もっとも、このことを何かで読んだ時、驚くのと同時に疑いの気持ちも密かに芽生えたことも確かである。 ………バリみたいに観光で成り立っている島で、空港閉鎖したら大損害じゃない。だいたい、悪霊が来るから外出しないだなんて、ホントに皆そんなに信心深いの?もしそうなら、マジックマッシュルームだの、トランプ詐欺だの、日本人女性を狙った結婚詐欺だの、そういった噂との矛盾はどう説明するわけ? とにかく、バリへ行ってみないとはじまらない。そう思った。それに何より、"南の島"という心地よい響きが、私を捕らえて離さなくなっていたのである。 一年半後、つまりいま現在のことであるが、その時取材した小説は完成した。 「悪霊」と名づけたバリの物語は八月の中旬、偶然であるが、冥界から先祖が里帰りする旧盆の時期に発売となることが決まった。だが、取材の旅の途中奇妙としか言いようのない出来事が何度も目の前を通過したせいで、普通ならドキッとするようなその偶然に私は驚かなかった。きっと、あの旅の熱にさまざまな感覚が麻痺したままなのだ。 そしていま思えば、麻痺がはじまったのは南国ムードたっぷりだった行きの機内からであった。 春休みの時期であったためか機内は適度に混んでいて、通路を挟んだ隣の列とその後ろの列には学生らしき若い男女のグループが座り、ことあるごとに楽しそうな笑い声をあげていた。また、家族連れも目立ち、子供の声があちこちでしている。どうやら、乗客のほとんどが日本人の観光客のようである。そして、誰もがこれからはじまる南の島のバケーションを思い、幸せいっぱいの様子であった。嬉しそうな彼らの空気はこちらにも伝わり、十時間ものフライトを通じて、徐々に私の心をまだ見ぬバリ色に染めていった。 夢見心地のまま着陸したバリは闇に包まれていた。ゲートを出ると、むっとした熱気と共に大勢の男女が口々に叫ぶ声が私に襲いかかる。アジアの国に飛行機で到着すると必ず味わうことになる独特のその光景はどこかスリルがあって好きだが、この時に限って私は不安になった。なぜなら、迫り来るような人の群れの後ろの闇が、あまりにも深かったのである。周りを見渡すと、同じ飛行機で来た日本人たちはすでにツアーバスに乗ってしまったのか、誰もいない。どれくらいそうして立っていたのだろう。自分の名前とインターネットで予約したホテル名が書いてある紙を持った男を見つけると、導かれるままにバンに乗り込んだ。 運転手はさっきからひと言も口をきかない。言葉が通じないと思っているに違いない。疲れているのでそのほうがありがたい。乗客は他に誰もいない。バンはまっすぐな道路をどこまでも猛スピードで走る。外の闇と無言の闇が生み出す緊張感のせいで、車内は妙な居心地である。不意に、男はスピードを落とした。 車が門を曲がったその時、恐ろしい顔をした小さな石像をライトが捕らえた。一瞬だったが、石像の耳に赤いハイビスカスが飾ってあるのが見えた。黒々とした闇に浮かぶ毒のような赤い色に不安は最高潮に達し、それまで黙っていた私はいきなり喋りだした。運転手の驚いたリアクションが可笑しかったが、不安は拭いきれない。 やっと外国為替証拠金取引 した時、時計はすでに深夜に近かった。あまりにも疲れていた私は、ぐったりと崩れ落ちてしまった。部屋のベッドにではなく、チェックインロビーを出たところの、水をいっぱいに張った蓮池の上に、である。 一歩足を踏み出した瞬間私の視界いっぱいに広がったのは、明るい水色やコバルトブルーなどの爽やかな色である。ゆったりとした不思議な音楽が流れ、トロピカルフラワーのほのかな香りが漂ってくる。嬉しさに、私は思わず微笑んだ。 と言っても、そこはまだ目的地の島ではない。だが、成田空港のゲートを通り機内に乗り込んだ途端、もう着いたのかと錯覚させるほど清々しい南国風の内装に、さすが南の島バリ行きの飛行機だ、と感心したのだった。 アジア・ノワールというシリーズの小説の取材のためにバリを訪れたのは、もう一年以上も前になる。アジアであればどこを舞台に書いてもいい、と言われてあえて選んだのが観光地として名高いバリ島であった。 アジアの辺境が好きで、観光客にはめったに合わない山の中や湖をウロウロする旅ばかりしている私と、若い女性の買い物ツアーのイメージがあるバリはどこにも接点がないような気がしていたが、ある祭りの存在を知ったことをきっかけに、行きたいという欲求がふつふつと沸いてきたのである。 年に一度、大々的に行われるニュピという祭りがそれだ。島人たちはこの日に悪霊が来ると信じていて、いっさいの外出をしない。あらゆる店も、公共施設も閉まってしまい、空港すら閉鎖される。人々は家に閉じ籠もり、ひたすら静かに祈りつづける。毎日何千人も訪れる観光客ですら例外ではなく、無理にホテルの外に出ようものならこっぴどく注意を受け、逮捕されることもあるのだそうだ。 もっとも、このことを何かで読んだ時、驚くのと同時に疑いの気持ちも密かに芽生えたことも確かである。 ………バリみたいに観光で成り立っている島で、空港閉鎖したら大損害じゃない。だいたい、悪霊が来るから外出しないだなんて、ホントに皆そんなに信心深いの?もしそうなら、マジックマッシュルームだの、トランプ詐欺だの、日本人女性を狙った結婚詐欺だの、そういった噂との矛盾はどう説明するわけ? とにかく、バリへ行ってみないとはじまらない。そう思った。それに何より、"南の島"という心地よい響きが、私を捕らえて離さなくなっていたのである。 一年半後、つまりいま現在のことであるが、その時取材した小説は完成した。 「悪霊」と名づけたバリの物語は八月の中旬、偶然であるが、冥界から先祖が里帰りする旧盆の時期に発売となることが決まった。だが、取材の旅の途中奇妙としか言いようのない出来事が何度も目の前を通過したせいで、普通ならドキッとするようなその偶然に私は驚かなかった。きっと、あの旅の熱にさまざまな感覚が麻痺したままなのだ。 そしていま思えば、麻痺がはじまったのは南国ムードたっぷりだった行きの機内からであった。 春休みの時期であったためか機内は適度に混んでいて、通路を挟んだ隣の列とその後ろの列には学生らしき若い男女のグループが座り、ことあるごとに楽しそうな笑い声をあげていた。また、家族連れも目立ち、子供の声があちこちでしている。どうやら、乗客のほとんどが日本人の観光客のようである。そして、誰もがこれからはじまる南の島のバケーションを思い、幸せいっぱいの様子であった。嬉しそうな彼らの空気はこちらにも伝わり、十時間ものフライトを通じて、徐々に私の心をまだ見ぬバリ色に染めていった。 夢見心地のまま着陸したバリは闇に包まれていた。ゲートを出ると、むっとした熱気と共に大勢の男女が口々に叫ぶ声が私に襲いかかる。アジアの国に飛行機で到着すると必ず味わうことになる独特のその光景はどこかスリルがあって好きだが、この時に限って私は不安になった。なぜなら、迫り来るような人の群れの後ろの闇が、あまりにも深かったのである。周りを見渡すと、同じ飛行機で来た日本人たちはすでにツアーバスに乗ってしまったのか、誰もいない。どれくらいそうして立っていたのだろう。自分の名前とインターネットで予約したホテル名が書いてある紙を持った男を見つけると、導かれるままにバンに乗り込んだ。 運転手はさっきからひと言も口をきかない。言葉が通じないと思っているに違いない。疲れているのでそのほうがありがたい。乗客は他に誰もいない。バンはまっすぐな道路をどこまでも猛スピードで走る。外の闇と無言の闇が生み出す緊張感のせいで、車内は妙な居心地である。不意に、男はスピードを落とした。 車が門を曲がったその時、恐ろしい顔をした小さな石像をライトが捕らえた。一瞬だったが、石像の耳に赤いハイビスカスが飾ってあるのが見えた。黒々とした闇に浮かぶ毒のような赤い色に不安は最高潮に達し、それまで黙っていた私はいきなり喋りだした。運転手の驚いたリアクションが可笑しかったが、不安は拭いきれない。 やっとチェックインした時、時計はすでに深夜に近かった。あまりにも疲れていた私は、ぐったりと崩れ落ちてしまった。部屋のベッドにではなく、チェックインロビーを出たところの、水をいっぱいに張った蓮池の上に、である。

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